羽田新ルートの運用開始
2020年3月29日から都心上空を飛ぶ羽田新ルートの運用が開始された。
羽田新ルートは日本を観光立国化させるため、直近ではオリンピックに伴う訪日外国人の増加に対応するため、羽田空港の国際線の発着数を増加させるための打ち手である。
オリンピックが延期され、JAL、ANAの国際線が8割減便されている現在、最悪のこのタイミングで運用開始する必要があるのか?と思うだろうが、役所では「決められたことをスケジュールどおりに実施する」ことが何よりも大切である。
民間企業なら、いくらなんでもこのタイミングは最悪だから延期しようとなるはずだが、似たような話に、JR東が高輪GW駅を外出自粛中に予定どおりオープンさせて鉄道ファンが大行列して濃厚接触した例がある。国交省もJR東もセンスがないし、組織内のことしか考えていないのだ。
自治体の反応
国交省のウェブサイト「羽田空港のこれから」において、羽田新ルートの詳細が載っているが、羽田新ルートは都心上空を通過するルートである。
豊島区、新宿区、渋谷区、港区、目黒区、品川区、大田区などの上空を通過する。
マン点さんが再三まとめられているが、各区長は本件について強く反発していない。港区長のコメントを見ると他人事のようである。
>区はこれまで国に対して、区民に対する教室型説明会の開催や安全対策、騒音対策等の様々な取組について要請してまいりました。
>その結果、区内各地区で教室型説明会が開催されたほか、新聞広告等のマスメディアを活用した広範囲な情報提供、落下物防止対策基準の義務付けや駐機中の機体チェックの強化等の安全対策、飛行高度の引き上げによる騒音軽減等の方策が講じられました。
>一方で、区民からは、依然として落下物や騒音等に対する不安の声が寄せられており、区としては、新飛行経路案に関する情報等の周知が十分ではないと考えております。
>このため、区は、区民の安全安心と生活環境を守る立場から、引き続き、国の責任において、区民の不安や疑問の払しょくに向けたきめ細かな情報提供や丁寧な説明を行うとともに、さらなる安全対策や騒音対策等に積極的に取り組むよう、国に対して強く求めてまいります。
最後の文章なんて、「国の責任」と言いたいだけでなにも言ってないのと同じ。良いことを言っているようで内容がない演説である。なぜこんなにやる気がないか。
区議会議員さんの話では、「羽田新ルートは観光立国の前提として政府が決定したもの(自民党や公明党が公認する政策)であるため、自民党との関係性を重視する各区長は反発しづらい」ということである。たしかに、議員レベルでも反発しているのは、共産党と都民ファースト一部の無所属議員ぐらいで、要は自民党と関係が薄い勢力だけが反発している状況。
各区長は区民の手前、(選挙対策として)何もしないわけにはいかないので、「撤回は求めない(自民党への配慮)」が「国になんらかの対応を求める(区民への配慮)」というポーズをとる。そして対応しなかったのは国だから、と自らの責任になることを避ける。
区民がなにかを求めており、区長が代表として国に要望を伝える場合、交渉の結果ゼロ回答なら、区長の責任もゼロではないだろうが、そうならないように細心の注意を払って言葉を選んでいる。
これは区長が独自に判断して行動しているわけではなく、事前に調整がついている状態で、自民党の調整力の高さと、国と地方の議論が発生することさえ許容しないという姿勢。
港区民として、港区長の官僚答弁っぷりには呆れる。「引き続き要望を伝えていきます(区が独自に何かやる気は一ミリもありませーん)」では、まるで存在意義がない。
政策として羽田空港の発着枠を増やす必要があるのは理解できるし、仕方ないと思う。ただし、音の感じ方は個人差があるのだから、希望者には二重サッシなどの防音リフォーム代金を一部補助するなどをすべきではないかと思う。もともと、省エネリフォームで補助があるので、これを多少強化すれば良い。新ルートが通過する区の区長は国にこの予算を求めるべきだと考える。羽田空港の増便で税収は伸びるのだから、原資は十分にある。
国交省が開催してきた説明会も、「説明しました」という事実を作る以外、何の意義もないしやる気もない内容であった。たしかに、撤回を求める人の対応には苦慮したのだろうが、パブリックコメントや自治体との公開討論など、もう少しやり方は工夫できなかったのだろうか。自分の正統性だけを主張して、異なる意見に対しては全く聞く耳持たずの人の話を誰が聞くのだろうか。
懸念点
羽田新ルートについて、いくつかの懸念が指摘されている。
主なものは、
・落下物などの危険性
・騒音による健康問題
・不動産価格の下落
である。国交省はこれらについてQA形式で回答している。さて、これで納得いく人いるのだろうか?以下は、QAから抜粋。
・落下物の危険性
>部品や機内又は空中由来の氷の塊が航空機から落下する恐れが指摘されています。これらの落下物は、点検や整備が不十分である場合に発生すると言われています。落下物が発生しないよう、航空会社への点検・整備徹底の指導、航空機メーカーへの設計・製造・整備マニュアルへの反映の働きかけなどの対策に取り組んでいます。
要約:(チッウッセーな)がんばりまーす。
(規制強化できれば省益も広がって一石二鳥!なお、航空会社の規制対応コストは空港利用者が負担するスキームだから役所にとってノーリスク)
・騒音による健康問題
>航空機が新飛行経路を飛行するのは南風時の15時から19時であり、義務教育の時間が概ね終了した後で夜間にお休みになるまでの時間帯に限定する予定です。また、建物の中では屋外に比べ音が大きく低減されます。健康への影響は考えにくいものと考えています。
要約:音がうるさい?室内入れば音小さくなるよ?w
・不動産価格の下落
>航空機の飛行経路と不動産価値の変動との間に直接的な因果関係を見出すことは難しいと考えています。成田、伊丹、福岡を対象に調査したところ、飛行経路が地価の下落につながることを示す因果関係を見出すことはできませんでした。
要約:不動産価格下がっても、新ルートのせいだと証明できないから知らんがなw
羽田新ルートでマンション価格は下がるのか?
国交省は羽田新ルートによる不動産価格への因果関係を見出すことはできなかった(キリッ)と言っているが、実際に運用開始された感想として、私はあると考える。
ネガティブな変化だからネガティブな影響があると考えるのが自然であって、影響が全くないと考える方が異常であろう。ネガティブな影響があるというと補償問題になるので、国交省は「影響はない(ある)」としか言えないのだ。嫌な仕事だと思う。
マンションの価格は需要と供給で決まる。羽田新ルートは需要にマイナスの影響を与えるであろうから、普通に考えればマンション価格にもマイナスに作用するだろう。いずれは慣れてしまうとしても、短期的にはマイナスになるだろう。人は変化に対して反応するものだ。
まず、品川駅の付近では、グォーという大きな音が聞こえてくる。事情を知らない人はなにごとかとキョロキョロしている。段々音が大きくなり、駅の上から巨大な機影が見える。肉眼だとかなり大きく見える。これが数分おきにくり返される。飛行機は全て同じ経路を通るわけではなく、風の状況によってズレるので、音の大小や飛行機の見え方も変わってくる。
実際に通過する機体を見ると、巨大なターミナル駅の品川駅の上を通るのは異常だと思う。
特に気になるのは音である。上空を通過する時の音は近くをバスが通ったときいくらい〜近くで人が大声で叫んだくらいの音(会話が聞こえなくなる程度)だとは思うが、目に見えない状態から広域に音が鳴り響くため、驚く人が多いだろう。港南エリアは、モノレール、新幹線など、音がする交通機関が通っているの音には慣れているが、航空機の騒音は今までとは違うものである。
昨今のマンション価格の高騰で、羽田新ルートが通過する、新宿区、渋谷区、港区、目黒区などのマンションは高騰している。低金利を前提条件に、大きな借金をして無理して買うレベルの水準になっている。
そうなったときに、ネガティブな要素、不安要素というものは気になる。なぜ、8000万円、9000万円もするのに騒音が気になる物件を買うのか。それなら違う場所にするかと考える人もいるのではないか。
特に、静かなエリアから来た人はそう考えるのではないか。また、港区の高級なエリアの上を通過するが、居住環境を重視する層、引退後、長くそこに居住しようとする層も敬遠するのではないか。
自分や家族が住むのに大丈夫か?また、いずれ貸したり売ったりするときに大丈夫か?
羽田新ルートによって羽田空港の利便性が向上すれば、空港へのアクセスの良いエリアは逆にプラスの効果もあるだろう。しかし、多くの人にとって、空港を使う頻度は月に数回程度。騒音は毎日ではないが、騒音の頻度の方が高い。
物件価格が10%下がったとして、コロナショックで下がったのか、羽田新ルートで下がったのか分析するのは難しいが、「全く影響がない」と考えるのは不自然であると思う。
羽田新ルート下にマンションを買おうとする場合、屋外ではどのように聞こえるか、室内からはどうか、窓を開けたときはどうか、確認してから買うべきであると考える。物件の場所と防音性能、個人の敏感さによりかなり差が出てくる。