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日本にある全てのEVの充電にかかる電力量をざっくり試算してみた

フワッとしたイメージで、「EVが普及したら電力が足りなくなる」「日本は電力逼迫なのにEV推進はおかしい」といったことを言う素人評論家がいるのだが、

彼らは数字が入った議論をしていることが全くと言っていいほどなく(そもそも、EVが何台日本にあるのかも知らないだろうし、EVのバッテリーサイズも電費も知らない)、実際にヤバいのかヤバくないのかのイメージが持てないので、EVの使用電力量をざっくり試算してみることにした。

 

(1)EV1台あたりの消費電力量

EVはバッテリーに充電した電力量の範囲でしか走行できないため、電費と年間の走行距離からその車の年間の消費電力量をざっくり計算できる。

ぼくのモデル3ロングレンジは75kWhバッテリー(実使用は70kWh程度だが)で、550km走行するので、1kWhあたり7.33km走行できる。

モデル3は比較的電費が良いので、電費が悪い車として100kWhで500kmしか走らない車を想定すると、1kWhあたり5kmになる。

日本のEVの多くはリーフなので実際にはもっと電費はいいだろうが、自然放電とか走行外の電力使用もあるので、1kWhあたり5kmで計算する。

日本人の年間走行距離はソニー損保調査によると、年間6,000km程度とのことだが、色々な調査があるので、長めに月1,000kmとして、年間12,000kmとする。

電費5km/kWhのEVが年間12,000km走行するのに必要な電力量は2,400kWhである。

 

(2)日本国内のEVの保有台数

次世代自動車振興センターによると、2020年時点で国内におけるEVの保有台数は123,706台とのこと。

2021年には約2万台販売されたので、国内で保有されている現役のEVの台数は約15万台であろう。

このうち、多くはバッテリーが小さく電費が良いリーフである。

 

(3)EVの電力消費量

1台あたり2,400kWh使用する車が15万台あるので、EV全体では年間3.6億kWh使用していることになる。

 

(4)日本の総発電量

電気事業連合会によると、2020年度の日本の年間発電量は10,008億kWhで、約1兆kWhとのことだが、

資源エネルギー庁によると、2021年度の電気事業者の総発電量は8,635億kWhで、総需要(電気事業者の販売量+特定供給量+自家消費量)は8,816億kWhとのこと。

ここでは少ない方の電気事業者の発電電力量8,635億kWhでざっくり計算。

 

(5)EVの消費電力量の比率

日本では電気自業者が年間8,635億kWh発電している。うち、EV15万台は年間3.6億kWh使用している。(全てをグリッドから充電する極端な前提で)

つまり、日本にある全てのEV(約15万台)が1年間で消費する電力量は、日本の電気事業者の総発電量の0.042%程度である。

これをみてどうだろうか、「EVが増えると電力需要がヤバい!」って思うだろうか。2021年のEVの販売台数は年2万台程度のようだが、これがどのくらい増えるとヤバいのだろうか。

もちろん、これは車両が使用する電力量だけなので、充電装置の待機電力、充電の際のロスなどは含んでないが、EVの充電に要する電力量のボリュームは非常に小さいものである。日本ではEVの台数が少ないのがその理由。

 

(6)ピークシフトの問題

非常にざっくりとした総量の比較をしたが、実際には電力消費量は時間帯によって倍になったり季節によってさらに倍になったりと変動が激しい。

ピーク時間帯には需給が逼迫し、節電が呼びかけられるので、EVの充電をピークシフトして少しでもピーク電力需要を減らしたいというのはわかる。

ただ、これも計算してみればわかるが、EVの充電を0にできたとしても、全体として見れば、需給改善に与える影響はほとんどないだろう。

みんながコツコツエアコンを節電してるのに車を急速充電するのはおかしくね?というお気持ちの問題でしかない。

そもそも、EVの8割は電気料金の安く車を使用していない夜間に自宅で普通充電されるという調査があり、電力需要のピーク時間帯に充電する人は少ない。急速充電器はその場所まで走っていって、充電中待っていなければならないので、自宅充電がない人か長距離移動中のための経路充電のためのものである。

 

※データを見つけたので追記

電気事業連合会によると、ここ数年で最大電力発生日だったのは、冬では2022年1月21日、夏では2019年8月2日。

冬の場合は、9時と19時が最大で、AM2時から3時くらいが最低になる。最大151百万kW、最低111百万kW。

夏の場合は、10時から17時まで高止まりし、特に15時くらいがピークになる。最低はAM5−6時くらい。最大182百万kW、最低88百万kW。

EVの電力消費を1日あたりに直すと、1年あたり3.6億kWhなので、1日あたりでは、986,301kWhである。

このうち、8割が夜、2割が昼に充電されるとして、昼は大体ピーク時間含む6時間くらいに分けて均等に充電されるとする。(テキトー)

この前提では最大電力量となる1時間にEVが充電することで消費される電力量は32,877kWhとなる。

電力事業者の発電量は冬で151百万kW、夏で182百万kWの発電しまくりの日に、EV充電のために0.032百万kWを確保しなければならないということ。

発電量全体に対する比率にしてみれば0.02%程度だが、電力需要が大きく電力確保にヒィヒィ言って火力発電しまくってる日には少しでもピーク需要を減らしたい。

絶対量としては大きくないが、EVの充電の多くは時間調整できるため、ピークシフトして欲しいということ。

一般論としては、EVの充電を含む使用する時間をずらせる電力の消費はピークシフトして欲しいが、EVの充電のせいで電力需要が大きく増えて需給が逼迫しているわけでは全くない。

EVの充電による電力消費量の増加は0.02%程度でぶっちゃけゼロにできても電力確保にはほとんど貢献しない誤差レベル。

 

(7)太陽光パネルの設置促進や電費の改善などの対応

それでも、今後爆発的にEVの台数が増えれば、例えば現在の100倍の1,500万台が保有されるようになれば発電量に対する比率は4%になる。

ピーク時間帯には大きな比率になることも考えれるので、太陽光パネルの設置による発電量の増強、蓄電池の設置によるピークシフト、普通充電の普及によるピークシフトなど、

EVの消費電力量をうまく吸収していくためにさまざまな対応が取られていくはず。

ただ、現実的には数年で100倍になることはないだろうし、変化は10年、20年かけてゆっくりなので、対応も間に合うだろう。

 

(8)EVや充電器の性能向上

今回5km/kWhという電費で計算したが、これは現行EVの車種では電費が最悪の部類であって、今後、電池やモーターや制御技術の向上で10km/kWhくらいを目指して改善していくだろう。ガソリン車でも発生した燃費改善競争の電気自動車版である。初期のEVは金持ち向けの巨大バッテリーのハイパフォーマンスカーで、電費悪い車が多かったが、普及していく中ではバッテリーサイズは小さくなり、回生ブレーキやバッテリーマネジメントの技術は向上し、電費は改善していくだろう。

また、充電器の性能も上がり、蓄電池を使用してロスを減らすものやピークシフトするものなど、多様なものが出てくるはず。

自動運転も段階的に実装され、安定した速度で電費を重視して走行することが想定されるため、EV全体で見たら、電費はどんどん良くなっていくはずだ。

こうした性能改善を考慮すると、EVが増えると電力消費量が増えてやばいというのは実態に即しておらず、フワッとしたイメージ、偏見、思い込みなんじゃないかと思う。

ざっくりではあるが簡単に計算できるので、EVが増えたら電力需要がヤバい論者は「EVが何台増えるという前提では消費電力量が何kWh増えて(またはピーク時間帯の追加的な消費電力量が何kWh増えて)、それは発電量の何%(または原発X基分)だからヤバい」と説明してほしい。

短期間でEVの販売量が100倍になるとか、全てのEVが家庭充電をしないようなありあえない前提でもなければ、計算してみればさほどやばくないことがわかると思う。

何十年後かにはやばくなるのかもしれないが、少なくとも2022年の段階では別にやばくないよねという話(というかボリュームが小さすぎてほとんど関係ないと言う話)であるため、主に原発再稼働や火力発電の燃料安定調達の難しさ、老朽化した発電所稼働率の低下など、発電サイドの問題である電力逼迫問題をEVの充電と結びつけるて論じるのは、全く論理的ではなく、偏見でしかない。

 

また、やばくなるとしても、総電力量(kWh)ではなくピーク時の最大瞬間風速(kW)であると思うが、この点を指摘する人も少なく、混同しているように思われる。年間の総KWhが足りない→発電量を増やすため原発を増設する必要がある。最大需要の時のkWが足りない→まずは需要のピークシフトする必要がある。という話で、対策が変わってくる。

 

EVの充電に関しては、最も需要が多く発電能力ギリギリの時に、EVの充電でいくらkWを消費しているのかという数字が最重要で、その対策としては、電力の余ってる時間に充電するように促すことが妥当である。