konanタワリーマンブログ

マンション、投資ネタブログ

解雇規制緩和が非常に筋悪な理由

総裁選の中で、河野太郎が解雇規制緩和について言及し、なぜか維新も同調しているが、この分野の実態を知る者としては、非常に筋悪な話だと感じるのでポイントをまとめてみる。

 

(解雇規制緩和が愚かな理由)
理由は、3つある。

 

(1)再び賃金デフレに陥るリスク
日本経済はバブル崩壊後、30年間低迷しその間はベアゼロが継続した。先進国は賃金インフレが継続して、日本の賃金は先進国最低レベルとなった。

 

低賃金の弊害としては、
「消費が低迷してデフレ圧力となり、コストカット、リストラ、投資の減少を生むデフレスパイラルに陥る」
社会保障費が増加する中で国民負担率が高まってしまう」
「購買力が低下して海外から資源や商品が買えなくなってしまう」 などがある。


他にも、表面的には見えづらいが、「海外から優秀な人材確保ができなくなる 」「優秀な人材が海外に流出してしまう」などがある。

 

これらは平成時代に実際に発生したことで、まずいまずいと言われながらも、流れは変えられず、賃金も消費も低迷しつづけた。


そこから、ボリュームゾーン世代の退職で求人倍率がタイト化(人手不足化)し、金融緩和による円安や海外景気などから最高益となり、さらにコストプッシュインフレや政策的な後押しなどで、ようやく2024年に30年ぶりのベアが実現し、賃金デフレから抜け出せるか?また、揺り戻されてしまうのか?(ベア継続には人事担当者の中では懐疑派も多く、例外対応としてこなしている、本来給与でやるべきベアを賞与でやるなど)という瀬戸際のタイミングで、賃金上昇機運に水をかぶせるようなことをするのはおろかとしか言いようがない。ようやく、何十年にもわたる賃金デフレ脱却への努力が結果になりそうな大事なタイミングで余計なことをするなということだ。

 

再び、賃金デフレに陥るリスクのある政策(求人倍率を低下させるおそれ のある政策)は、せめて、5%超の賃上げが5年程度定着して、賃金デフレマインドが変化し、デフレ賃下げを前提とした給与制度からインフレ賃上げを前提とした給与制度に変化し、賃金水準が先進国中位水準になる道筋が見えるまで待つべきである。

 

雇用や賃金の分野で今、何よりも優先すべきは国際的に低すぎる賃金水準の是正であり、これが理解できていないのは現状認識がおかしいというか、人材の流動性をあげたい業者のポジショントークか、賃金に詳しくない素人が思いつきで言っているのだろう。


ぼくは、再度賃金デフレに陥ってしまったら、今の日本では、二度と再起できなくなってしまうのではないかと危惧している。

 

人口減少加速に加えて、すでに賃金が低すぎるところから、さらに10年低迷したら、経済が低迷し、輸入物価が高いのでインフレは継続し、社会保障費は増え続けるので国民負担率はどんどん上昇し、日本の経済悪化は転がり落ちる悪化を続けるような状態になる。そうなると、まともな人は日本にはいられず、海外に脱出していくことになる。これを防ぎたい。

 

(2)短期的に悪い効果が発生するが、長期的な期待効果は未知数
解雇規制緩和されれば、JTCは一斉に余剰人員を整理することが予想される。これにより、総人件費は減少(=国内消費は減少) し、求職者が増加する。


必要人員は解雇しないため、求人は増加しない。賃金も上昇しない 。求人倍率が低下して、買い手市場となり、賃下げ圧力が生じる。 (今と逆の動き)

 

企業内のフリーライダーが減少すれば、長期的には企業の効率が上昇するかもしれないが、逆に低下することもありえる(解雇を避けるためにノウハウを共有しない、情報を徹底的に囲い込む人が増えるなど)。


つまり、短期的に大きなマイナスが見込まれ、長期的な効果は不明 。なら、なぜそんなことをやる必要があるのか?賃金デフレから抜け出すか逆戻りするかどうかの非常に大事なこのタイミングで?ということだ。

 

米国との比較で、「米国は解雇規制がゆるいので賃金が高い。日本も米国にならって解雇規制をすべし。」という雑な議論があり、維新などはこれだと思うが、そもそも、米国は移民で人口増加が定着しており、将来の成長期待がある中で、何もなければ求人が増加し続けるという特徴がある。


人口減少が継続する日本では求人は増加し続けないため、求職者を増加させると求人倍率が低下して強い賃下げ圧力になる。諸条件が全く違うものを一点だけで比較して同列に語るのはおろかである。端的に、日本の労働市場はそんなに強くないのだ。景気循環と、ボリュームゾーン世代の退職、若者の人口減少が重なって一時的に人手不足感が強まっているだけ。

 

雇用や賃金に関する分野は身近なので素人が「オレの考えた最強の政策」を好き勝手に言うのだが、非常に複雑で過去の経緯やパワーバランスが重視される奥深い、闇深い領域である。表層的な話ではなく、実態を知る専門家をブレインにつける必要がある。

 

雑な海外比較や素人の思いつきではなく、過去の経緯、法体系、判例などの労働文化、経営と組合の関係性などを踏まえて、現状をよく理解し、何が問題なのか、最も優先すべきは何なのか、数年かけて変えていくべきは何なのか説明できる人がやるべきだ。

 

日本経済再生と同じで雇用労働問題は一発で全て解決、みたいな分かりやすい話ではない。また、企業側で本音と建前の乖離が激しく、信頼できるデータも未整備で外からは実態が掴みづらい難しい分野なのだ。

 

(3)期待権が破壊されて若者が不利益を被る
平成時代の成果主義は成果を出しても賃金据え置き、成果が普通以下だと賃金引下げという政策だった。成果主義導入により、ざっくりいうと、 全員の処遇が下がって、加えて、若手の昇給は強く抑制された。


成果主義の際に不利益が最大だったのは、実はおじさん世代ではなく、若者だった。これは既得権に比べて期待権の不利益変更が容易だからである。若者の昇格可能性が改悪され、生涯賃金が大きく削られた。

 

しかし、当時の若者は成果主義が入ればおじさんの給与が下がるかわりに、若者の賃金が上がるだろうと期待する向きがあった。実際には、そんなことは起こらなかった。当時の若者はまさに肉屋を称賛する豚であった。


マスコミも経団連成果主義で日本経済復活とあおりまくったが、 実際には、人件費を強力に押し下げ、日本経済を長期低迷させる原因の一つとなってしまった。賃金は単純なコストではなく内需、購買力そのものである。賃金を削れば日本国内の売上が減ってしまう。


現在、解雇規制緩和を称賛する労働者からも同じものを感じる。平成の歴史から何も学んでいない。みんなが思った通りのお花畑状態にはならないのだ。成果主義も解雇規制緩和もツールにすぎず、どう使うかなのだが、企業にデフレマインドが強いので、コスト削減だけに使ってしまう。ツールだけを見て素晴らしいとかダメだとか、という話ではなく、企業の状態を合わせて理解しなければならない。

 

現在の賃金の問題は、過去最高益を毎年更新しているのに賃金上昇が弱すぎることである。国際比較で賃金が低すぎることである。賃上げ余力はありまくる中で、わずかに費用が下がったからと言って誰かの賃金を上げることはない。


他人の賃金が下がったとしても、あなたの賃金が上がることはありえない。賃金は上がるときは全員上がり、下がるときは全員下がるものだ。


だからベースアップで、管理職を含めた昇給カーブを持ち上げる(=期待権を確保する)必要があるのである。期待権とは採用力であり、 将来の人材の質であり、将来の成長期待である。企業の未来、日本の未来そのものだ。賃金水準が低い国からは働く人が離散して未来がない。

 

賃金をめぐっては、労働者同士を団結させないため、反目させて統治する分断統治政策が行われてきており、若者vsおじさん、 男性vs女性、育児介護vs単身、派遣vs正社員、働かないおじさんvs実務負担の大きい若手などを反目させたうえで、「片側が恵まれすぎているのは許せない」と、どさくさに低い方にあわせる形で全体の処遇が引き下げられてきたが、またこの状態になるのかとうんざり。

 

(今やるべき最優先事項は何か)
今やるべきは賃金デフレからの脱却、賃上げの定着、先進国最低水準の賃金から先進国中位水準への賃上げ、デフレ時代の人事制度からの脱却が最優先。


賃金増加が定着すれば、国民負担率が低下し、可処分所得が増加して、消費が増加する。

 

賃金を上げるための必要条件は、好業績、インフレ、人手不足(求人倍率向上)である。最優先に賃上げを置けば、好業績、インフレ、人手不足を推進するための政策は善、阻害する政策(業績を悪化させ、インフレ率を引き下げ、求人倍率を低下させる政策)は悪であり、優先順位は下がる。

 

フリーライダーやローパフォーマーに規律を与えるための対策は別の方法(職責明確化、評価、フィードバック、異動、降格等)でやればいいし、賃金を下げるリスクをとってまで解雇規制緩和が必要かどうかは賃金デフレから完全に脱却してから考えればいい話である。


働かないおじさん問題、人材流動性が低い問題という、身近で、気にはなるが実は本質的なはたいしたことのない些事に気を取られて、重要な問題で足を引っ張ってしまうことは非常に筋悪である。

 

今、何が最優先事項なのか?それを考えれば、今、解雇規制緩和という話にはならないはずだ。

 

解雇規制ガーという人には、「あなたは今、賃金や雇用に関して、何が最優先な課題だと考えているのか?」と聞けば良い。

 

人材流動化ガーとか言い出したら、それは、現状認識ができていない素人の思いつきか、人材業者のポジショントークだろう。

 

人的余剰の削減、規律づけ、流動化も、将来的にやった方が良い話だと思うが、今、最も優先順位が高い課題ではないはずだ。日本は整理解雇や指名解雇は実態として可能であり、懲罰的な罰則(経営者の逮捕とか)罰金もない。単に、裁判になりうるというだけである。過去最高益なのだがら、解雇したければ、パッケージを厚めにして、丁寧に理由をつけて理解を求めて、一定の訴訟費用を見込んでおけば良いだけだ。

 

企業の中にはまだ賃金デフレマインドが強く、だから、賃上げを物価未満で行ったり、給与でやるべきものを賞与でやったり、ベアの対象を絞ったりとケチっている。デフレマインドでも物価に対するものと賃金に対するものでは大きな違いがある。物価は海外物価が上がれば上がると皆が理解しているが、賃金はそうはいかない。賃金に対するデフレマインドは強固である。

 

「資源価格とエネルギー価格が上がったので、商品価格を1.5倍にします」は受け入れられるが、「賃金を上げたいので商品価格を1.5倍にします」は受け入れられるだろうか。

日銀はデフレ時代のノルムからの脱却が見られるというが、それは輸入物価が上がったら商品価格が上がっても仕方ないという話であって、賃金に関しては見られないだろう。

 

あえて全く違う話を混同させて、利上げのためのポジショントークをしているのか、経団連などの建前「賃金を上げていくことが大事だと思う(対象者を絞ってケチるけどなw)」を間に受けたふりをしているのか。この分野は本音と建前の乖離が激しい分野であり、誰かの話じゃなく数字や制度(しかも、人が介在しないもの)しか信じられないのだ。というか、日銀の賃金も諸外国の中央銀行に比べて低すぎるが、どんどん上げていこうという認識にはなっておらず、賃上げは弱く、デフレマインドが強いことを自分で証明しているだろう。

 

今、日本を長年にわたって苦しめた賃金デフレを抜けるか、戻るかの瀬戸際にいる。賃金に関してデフレマインドが払拭され、賃金の引き上げ競争が発生するまで、国際的に低すぎる賃金の是正を何よりも優先するべきであり、余計なことはすべきではない。