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キッシーの金融所得増税に対する証券業協会のマジレス資料がなかなかイケてる件

日本証券業協会が「金融所得の実態に関する分析」という資料を公開しており、なかなかイケてるとぼくの中で話題に。

 

https://www.jsda.or.jp/about/teigen/tougi/kinyusyotoku.pdf

 

この資料の紹介ツイートをしてみたところ、マニアックなテーマなのに、千件超のいいね、数百件のリツイートがなされて、関心がある人も多いんだなと驚いた。

本件について、今までの背景やこの資料からの抜粋などをメモしておく。

 

岸田ショック<背景1>

・岸田政権誕生後、日本の株価が大きく下落したため、岸田ショックと呼ばれ、市場関係者からウザがられている(個人投資家の支持率めっちゃ低い)のは周知のとおり。特にマザーズは全く空気が変わってしまい、資金が退避してしまっており、公募価格割れのIPOも目立っている。

・ただ、米株も下落しており、最強だったGAFAの株が売られまくっている相場なので、キッシーのせいだけではないとは思う。(むしろ8割はプーチンとパウエルのせいだろう)

日本株はグローバル景気敏感株として捉えられることが多く、米株が下落するときは釣られて大きく下落する。(上がる時はなかなか上がらないが)これはキッシー以前から継続してきたことで、キッシーのせいというわけでもないだろう。

 

金融所得増税vsインベストイン岸田<背景2>

・キッシーは、「新しい資本主義」「一億円の壁」「金融所得増税」「配当金や自社株買いを規制」など、市場関係者から見たら物騒なことを言っており、マーケットに対してネガティブな政権なのかと思われていた。

・一方で、「インベストイン岸田」「貯蓄から投資を加速させるためにニーサを拡充する」「金融緩和は維持する」など、マーケットに対してサポーティブなことも言っていて、どっちやねんと思っている人も多いだろう。

 

1億円の壁<背景3>

・所得1億円を超えると給与所得よりも金融所得の比率が高まっていくことにより、家計全体で見れば高所得の人ほど所得税率が低下していく現象があり、これを一億円の壁と呼んでいる。給与所得が累進課税、金融所得は税率が一定なので当たり前であり、どこの国でも同じような状況になっている。

・特に日本では高齢者が金融資産の大部分を占めているため、給与は低いが金融所得が大きい人が多く、給与所得だけの人から見ればずるくね?という話である。

・この俗説は一見それっぽいが、給与所得と金融所得を混ぜるな危険という話である。給与所得は安定的だが、金融所得は大きく増減するものだし、大損することもある。儲かった時だけ累進課税というのはバランスが悪いため、ほとんどの国で分離課税で税率は一定(若干の累進というか、少額の人の優遇はある)となっている。

・1億円の壁は政策を議論する上では雑すぎる主張で、金持ちけしからんのイメージ操作をするためのものである。一方、日本では所得をベースに公的サービスが決定されることが多く、高資産低所得の人や自営業で所得をコントロールできる人が得する構造になっており、むしろこっちが問題ではないかと思う。

 

家計の金融所得<日証協資料P4>→家計の金融所得を見える化したいい感じの資料

・日本ではバブル期には高金利で利息(金融所得)が大きく、1994年には家計の受取利息は年間27兆円もあったが、金利低下で金融所得が減少し、直近では7兆円程度に落ち込んでいる。一方、配当金は1994年には1兆円だったが、直近では6兆円となっている。配当は利息の低下による収入減少を補うことはできていないが、一定の下支えをしている。

・(ぼく注)企業の配当金は史上最高であることは度々指摘されるが、家計の株式保有額が小さいので、家計の金融所得ということで見ると、史上最高額でウハウハという状態ではなく、利息の減少を多少補填できたというくらいだ。もちろん、インフレがどうのとかはあるが名目の値は大事。バブル期に比べると銀行預金金利国債の利息はほぼゼロになってしまった。配当収入は近年増えて来てるとはいえ、まぁ額としては知れてるよねという状態である。

 

金融所得の損益通算<日証協資料P5>→損益通算、何年検討してるんだよという話

・日本では金融商品の課税は20%の申告分離課税となっている。2009年から上場株式の譲渡損益と配当は損益通算となっており、売却損失が出たときは配当金が非課税になる。

・(ぼく注)過去何十年も言われているが、さっさと株式とデリバティブの損益通算しろよという話である。現物のヘッジをデリバティブで行うと、収支がプラマイゼロでもなぜか税金を取られる。海外ではどうなんだとかもう少しデータが見たいところ。証券税制は内政問題だったが、今や金融取引はどこでも行える時代であるため、国際標準に近づけなければ、取引や税収が流出するだけである。損益通算が実現しない理由は、短期的に税収が減るから嫌どすということだが、損益通算により利便性が高まれば今よりもデリバティブの利用が一般化してパイが拡大する可能性もあり、そのような成長を促す政策が妥当だろう。

 

家計の現金収入の内訳<日証協資料P8、P9>→家計の収入を見える化した素晴らしい資料

・家計を資産額の水準によって10分位に分けて、現金収入の内訳を示すと、資産が高い家計ほど給与収入以外の比率が高まっていく。ただし、不動産収入は配当利息収入を上回っており、配当や利息はマイナーな存在であることがわかる。

・不動産収入は全ての階層で配当や利息の収入を上回っており、TOP5%の階層では不動産収入が128万円、配当金は24.9万円となっている。

・(ぼく注)今回の資料の中でここが1番面白く、示唆に富んでいる。まず、資産の水準で区分していくと年齢が高いほど資産が高くなる。また、資産が多い人ほど、給与以外の収入源の比率が高くなる。給与以外の収入の内訳を見ると、家賃、事業収入、年金などの比率が高く、利息や配当金の比率は極めて小さい(グラフからは正確な数値は読めないが、もっとも資産が多い上位1%の家計でも比率は5%くらいだろうか。)。全ての区分において、家賃収入>利息や配当金となっており、上位10%では家賃収入が利息や配当金の5倍程度とのことである。なんとなくのイメージで金持ちは配当金でガッポガッポなんじゃないか、というイメージがあるかも知れない。そういう人も少数いるかも知れないが、全体としてみれば、実際には不動産収入の方が何倍も大きく、配当金や利息はマイナーな存在である。所得の再分配という観点からは、不動産所得や給与以外の事業所得の話をするべきであって、上位1%の家計でさえ構成比5%程度しかない金融所得を再分配してもほとんど効果がない。

 

家計の資産の内訳<日証協資料P10>→家計の資産を見える化した素晴らしい資料

・資産が大きい家計ほど、不動産の構成費が高くなる。資産が小さい家計では金融資産と不動産は1:1.5とか1:2程度だが、TOP5%では不動産が金融資産の2.6倍、TOP10%では4倍以上となっている。これは家計の収入の内訳の資料とも概ね整合している。つまり、日本では金持ちほど不動産を取得しており、資産に占める不動産収入の比率が高くなる。

・(ぼく注)金持ちほど株式関係の収入が多いのだというイメージを持ちがちがだが、実際には金持ちほど資産に占める不動産の比率が高くなる傾向にある。特に上位5%から1%の上昇率は顕著であり、再分配の話をしたいなら株式ではなく不動産収入の再分配をしなければ政策的にほとんど意義がないことになる。また、富裕層だけでなく、金融所得に一律に増税した場合、金持ちは不動産に切り替えるだけであり、ほとんど意味がなく、不動産が取得できない層が苦しむことになる。また、この傾向には相続税制が不動産を優遇し続けていることも強く影響している。

 

利息や配当金の額<日証協資料P12>→資産がTOP1%の家計でも配当金等の収入は年間数十万円程度であることを示した素晴らしい資料

・資産がTOP5%の家計の配当金等の収入額は年間24.9万円である。TOP1%の家計では43.6万円である。

・資産がTOP5%の家計の46%が株式を保有している。TOP1%の家計の49.1%が株式を保有している。

・(ぼく注)金持ちは配当金だけでガッポガッポでけしからんというイメージがあるかも知れないが、実際には配当金等の額は数十万円の世界である。また、株式を持っていない家庭の方が多い。日本の高資産の家計では不動産を持っていない世帯はほとんどないが、株式を持っていない世帯は多いということである。日本は貯蓄から投資(特に株式)への資金シフトが進まなかったが、不動産に対してのみ銀行融資がゆるゆるだったことが影響しているだろう。ともかく、株式の配当金だけで数百万円、数千万円なんていう家計は0.001%とかの超激レア世帯であって、数えられるくらいしかいないということだ。それに対して課税強化したところで何か意義があるのか?また、利息や配当が年間数万円、数十万円の世帯に課税強化してどうするのか?という話である。

 

日本における純金融資産の分布<P24>→日本は資産面での格差が小さいことを示した良い資料

・日本では純金融資産が1億円以上の富裕層が2.3%おり、純金融資産総額の6.2%を保有している。

・日本では純金融資産が5000万円以上のアッパーマス層が6.3%おり、純金融資産総額の15.2%を保有している。

・(ぼく注)家計の純金融資産はごく一部の金持ちが大部分を占めているという状況ではない。よくも悪くも、日本ではスーパー金持ちはごくごく少数であり、あとはあまり変わらないということで、資産の分断はあまり顕著ではないということ。上位1%が資産の50%を占めてるみたいな状態ではない。さて、この状態でどこからどこへ所得や資産の再分配をするつもりなのだろうか。

 

高所得者層について<P43>→所得の半分以上を株式譲渡所得が構成する人は522人しかいないことを示した良い資料

・所得1億円を越えると資産所得の比率が徐々に上がっていくことで、所得税率が低下していく。

・それでは、その所得の構成はどうなっているのかを分析すると、所得が5億円までの人は株式譲渡所得より不動産の譲渡所得が大きくなっている。

・従って、株式の税率の関係で所得税率が低下することを問題視する場合、所得が10億円以上の人の話ということになる。

・特に、株式譲渡所得が所得の過半を占める人が問題になるが、そんなに高所得の人は日本に522人しかいない。

・(ぼく注)株式の税率が20%であることにより、所得率が低下して見えるようになるのは、所得が10億円以上の階層であり、522人しかいない。つまり、ほとんどいないと言って良く、1億円の壁というのは実際にはほとんどない概念である。また、所得税率が低下する場合、大部分は不動産の譲渡所得による影響であり、株式の譲渡所得は関係が薄い。つまり、1億円の壁がけしからんから株式の譲渡所得税率を引き上げるというのは問題と対処が一致していないことになる。そもそも、所得が1億円以上の人も納税者の0.04%しかおらず、極めて人数が少ないところの話をしている。

 

主要国における金融所得への課税方法<P51>→諸外国の金融所得課税には大きな違いがあることを示した良い資料

・先進国において、金融所得は分離課税かつ定率となっている。従って、1億円の壁のような状況はどの国でも発生している。

・イギリスやアメリカでは金融所得の額に応じて税率が変わる(累進性を持たせている)。

シンガポール、中国、台湾、韓国では株式譲渡益は非課税(!)であり、配当や利息のみ課税される。

・(ぼく注)どこの国と比較するかだが、先進国では基本的には分離課税で一定率の国が多い。アジアでは譲渡所得が非課税な国が多い。シンガポールや香港は配当も非課税。最高か。

 

所得と所得税率の関係<P59>→給与所得税率と資産所得税率を比較した良い資料

・納税者の96.2%は所得税率が15%未満である。

・株式の譲渡所得は20%であり、96.2%の納税者の給与に係る所得税率よりも高率となっている。

・(ぼく注)これは面白い着眼点だが、株式の譲渡所得20%を低いと考えるか高いと考えるかだが、ほとんどの国民の所得税率よりも高いというファクトがある。となると、所得が1200万円未満の人は自分の給与にかかるよりも高額な税金を払いながら株式投資していることになる。ほとんどの国民にとって20%という税率は高すぎる。ここにニーサの必要性があるのだろう。

 

相続税における不動産の優遇<P63>→不動産の優遇をいつまでやってるんだという怒りの資料

相続税の評価額計算の中で、土地や建物は実勢価格よりも20−50%程度ディスカウントして評価がなされることが多いが、株式は時価の100%で評価される。

・(ぼく注)これもいつまでやってんだという話だが、日本は不動産に対する相続税評価での優遇が大きすぎるため、金持ちほど相続対策のために資産を不動産にしていく。あきらかに歪みを与えてしまっており、是正が必要である。不動産の評価を時価に近づける、株式の評価をリスクプレミアム分減額するか、どちらかで、税制はニュートラルにするべきだろう。

 

個人的なまとめ

ざっと目についただけで、こんな感じ。面白いデータと面白い分析が多いと思う。

証券業協会の資料なので、基本的には証券業にプラスになるようにしたいというバイアスがかかっているだろうが、小難しい分析をしているわけでもないので、あまり強い偏向は感じられず、淡々としたファクトという感じ。

個人的に、これを踏まえて以下が課題となるのではないかと思う。

 

(1)キッシーは何をやりたいのか

そもそも、キッシーは何を問題として捉えていて、何を実現したいのか。1億円の壁というが、所得が1億円以上の人は0.04%しかいないし、株式の譲渡所得が所得の過半を占める人は500人しかいない。ぶっちゃけほとんど存在しないようなものだが、この人たちを狙い撃ちにして増税したいのか?増税しても他の資産に替えるか海外に退避するだけだろう。仮にうまく課税できたとしても税収が大して増えるわけでもない。やり方として、富裕層増税ではなく、ニーサ拡充をバーターに20%の税率を広く25−30%に引き上げる場合、ただでさえ給与の所得税率よりも高い人がさらに増税されることになるので、馬鹿馬鹿しくてニーサ枠以上に投資をする人が減ってしまうだろう。貯蓄から投資の流れを作るため(というか、公的年金が改悪される中で私的年金を作ってもらうため)には貯蓄に余裕がある人にはどんどん投資をしてもらうべきなのに逆行する。

 

(2)どの国を目指すのか

証券税制は内政問題であるが、国際的に取引が可能になった現在では競争条件でもある。日本は長いことアジアの金融センターを目指すと言ってきたが、中身は全くやる気がなく税制は内向きに議論されてきた。今後、どの方向を目指していくのか。日本の国力が落ちる中で、いつまで先進国をベンチマークにするのか?香港やシンガポールのように完全非課税とするのも厳しいならば、どういう方向を目指すのか。

 

(3)不動産の優遇をどうするのか

不動産は相続税制での優遇がなされている。これは不動産が時価評価されると相続税が払えない問題が生じることや、土地に対する日本人の考え方(代々同じ土地に住めるべき、土地を失うのは惨め的な民族的思想)が反映されてきたのだろう。ただし、これにより歪みを生じさせていることが資料から明らか。高額資産を持つ人は相続に備えて有価証券の比率を減らして不動産の比率を増やしていく傾向が強い。税制が変なインセンティブを与えてしまっているのだ。株式は長期投資が前提で、基本的に売らない方がいいのに、このため売られてしまうのだ。この異常な不動産の優遇をどうしていくのか。証券と税制をフラットにして変なインセンティブを与えないようにすべきではないか。証券増税するなら不動産の増税もしてバランスを取らないとさらに不動産への傾倒が加速するだけだ。

 

ぼくの考えるさいきょうの証券税制

日本では貯蓄から投資と数十年にわたって言われてきたが、全く進まなかった。一方、その間に日本の競争力は落ち、高齢化は進んでいるため、働いて稼ぐだけでなく資産を使って稼ぐ必要が出てきている。前例にとらわれない思い切った税制が必要だろう。だって、数十年も失敗してきたんだから。

 

・譲渡利益、配当への非課税(ニーサの拡充は当然として、富裕層に対する優遇措置も設けてシンガポールや香港と富裕層の囲い込みをガチンコやるか、そこからは撤退か)

・株式とデリバティブの損益通算(当たり前すぎる・・・)

・譲渡損失は一部を給与所得控除するなど、投資失敗した場合の救済を設ける(貯蓄から投資を本気でやるなら、勝った時の減税だけでなく負けた時の損失の軽減も必要では)

相続税制における株式の優遇を設ける(不動産で相続するより株式で相続した方が得、あるいはどちらで相続しても損益はフラットになるようにする)

 

こんな感じだろうか。