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マンション、投資ネタブログ

マンションとEV充電器の悩ましい関係

普通充電と急速充電

 

EVを買おうかなと考える人が最も気になるのは、「充電はどうするの?」ということであろう。

EVの充電は、数kWhの普通充電(6時間から12時間くらいかけて低速で80ー100%まで充電する)か、50-200kWhの急速充電(30分程度で80−90%まで充電する)により行う。

 

自宅では寝ている間に充電するため、急ぐ必要がないので普通充電、出先ではのんびり充電している暇はないので急速充電とかそんな感じだ。

これらの充電器(というか充電網のインフラ)がちゃんとあるのかどうかがEV運用の快適さを大きく左右するのである。

 

本来は、自宅に普通充電器、サービスエリアなどの経由地に急速充電器、目的地(オフィス、商業施設、レストラン、ホテルなど)に普通充電器があるのが望ましいが、都市部の住民はマンションに住んでいることが多く、自宅マンションには充電器がないことが多い。これが問題である。

 

都市部には急速充電器を増やして、自宅に充電器がなくても運用できるようにしてきているが、地域によって最寄りの急速充電器が遠い場所もある。

つまり、同じ車を買っても住む場所によって運用の快適さに結構な差が出るのである。

また、急速充電器の利用を前提とすると、それが壊れていたり、値上げされたりすると一気に厳しくなる。自宅充電は重要である。

 

マンションと充電器

 

実は震災以降に引渡しされたほとんどの湾岸タワーマンションでは、防災設備としてなんらかのEV充電器が設置されている。(ぼく調べ)

マンションに設置する充電器は基本的には普通充電器だが、ブリリア有明シティタワーなどごく限られたマンションでは急速充電器を設置している。

急速充電器は1基100万円から300万円程度、普通充電器は1基数万円から20万円程度で設置できるようだ。(工事費込み、補助金があるので実際はもっと安い)

 

普通充電器にも何種類かあり、100Vコンセント、200Vコンセント、テスラなどの専用充電器、チャデモ充電器などである。

マンションで共用する場合、誰でも使えるようにするので200Vコンセントにしたりチャデモにしたりする。

 

専用と共用

 

テスラオーナーにとっての理想は自分の駐車場区画にテスラ専用の充電器を設置することであろう。

変換コネクターを使う必要がなく、壁からとって車に差し込むだけ。見た目もスマートでかっこいい。

 

しかし、賃貸マンションでオーナーが協力的であるなどの例外を除き、共同住宅にテスラ専用の充電器を後から設置することはほぼ不可能であろう。

テスラ専用の充電器は、当たり前だがテスラ車でしか使えないので汎用性が低い。

 

マンションに充電器を後付けする場合、共用の普通充電器を少数導入することが多い。

この方法はコストが抑えられるので組合の意志決定としてハードルが低く合理的である。

実はEVの充電頻度は低い。10日に一度程度である。このため、専用の充電器は稼働率が低く共用の方が無駄がない。

 

パークタワー東雲などでは、タワーパーキングのパレットから充電ができる特殊なEV区画を採用している。

自分の区画専用の充電器を使った普通充電ができる。充電料金は駐車料金に含まれているそうだ。(しかも安い)

ただ、区画数は限定されているため、EV所有者にうまく割り当てられるかという運用の難しさが生じる。

 

マンションへ充電器を後付けする難しさ

 

新築時は自治体からの要請や購入者への宣伝のためにデベロッパがEV充電器を一定数導入するケースが多いが、後付けの場合は管理組合での意思決定が必要である。ところが、このEV充電器はごく少数のEV保有者にしかメリットがない話であるので、うまくいかないケースが多い。

 

将来的に、ほとんどの車がEVになれば自宅で充電ができないマンションは時代遅れになるのかもしれないが、足元のEV比率は1%程度であって、普通に考えれば、「もっと普及してきてから対応すればいいや」という話になる。

 

また、中古マンションを買う際に、共用設備をどこまで気にするか?というと、そんなに気にしない人が多い(=資産価値には影響しない)。

もちろん、すでにEVの保有者は最も気にするポイントになるが。

 

管理組合の意思決定は多数決であり、少数の人が求めているが、ほとんどの人には関係ないことへの対応が構造的に困難である。

全ての自動車がEVになったとしても、車を持っていない人の方が多いマンションでは、「ぼくには関係ないから、充電器設置反対!」となってしまいがち。

最近のタワマンは駐車場の設置率が30%程度である。100%がEVになっても、70%の人には関係ない話だ。

 

マンションに充電器を後付けしたケースも出てきているが、この場合、「有事の際には防災施設として活用する。(EVを蓄電池として使ったり、携帯電話を充電するなどで使う想定)平時はEV充電器として活用する。」として意味付けて、居住者全員にメリットがある話として整理しているようだ。

 

個別の事例を見ても、大抵の場合は「1棟賃貸マンションでオーナーが柔軟な思想を持っている」か、「パワーある理事長がリーダーシップを発揮して導入する」のいずれかであって、普通のマンションで管理組合も輪番制で嫌々やっているような場合はまぁ難しいのではないだろうか。

 

また、共用部の電気代が上がるという問題がある。EV充電の電気契約を別契約にして、利用者間で按分できれば良いのだが、現在はそれはできず、共用部の電気料金の基本料金が上がる。それをどのようにチャージするのかという問題が発生する。支援をする業者があるのでそうしたところを利用しながら受益者負担の仕組みを作っていくわけだが、まぁ骨が折れるので普通のマンションの管理組合ではなかなか難しい。

 

この意味でも、後付けは難しく、「最初から充電施設がついていて、デベロッパーがうまいこと仕組みをビルトインしてくれていて、利害調整の問題が生じないマンションを選ぼう」ということになってしまう。

 

EV乗るなら戸建てだよね〜でいいの?

 

今まで書いて来たように、EV運用にとって自宅充電は大切なものなのだが、マンションの駐車場にEV充電器を設置するのは難しい。

EVオーナーは自分の責任で自由にできる戸建てが合理的である。

 

個人レベルで見ればこの対応でいいのだが、国レベルでは「充電器のないマンションが多いこと自体がEV普及の妨げになってしまう」という問題がある。

政府や自治体は集合住宅への充電器設置に補助金をじゃぶじゃぶ出しているが、それでも設置は進んでいない。

 

集合住宅の駐車場に充電器設置が進まないという問題は海外でも発生しており、EV推進を政策的に進めている欧州では強力な規制(一定以上の規模の住宅の新設やリフォーム時には、EV充電施設の設置義務を課すなど)を行って、EVシフトのためのインフラ整備をゴリ押ししているようだ。

国や地域を問わず、この問題を解決するには補助金を出してオーナー任せにしているだけでは進まないということだろう。

 

ここ数年でEVの性能はどんどん上がっており、価格はゆっくり下がってきている。

日本でも国内メーカーがEVを投入し、補助金込みで価格がガソリン車より安くなればそれなりに普及していくだろう。

都市部で自宅充電器の整備が進まないままEVの普及台数が増えていけば、「政府や自治体は公共充電器をもっと整備しろ!」という要望がどんどん強くなる。

 

個人的にはこれはあまり健全ではないと考える。急速充電器をメインとして、急速充電器ばかりを増やすのはコスパが悪いので、自宅の普通充電器を主として、急速充電器は補助的なものとして行く方が良いと思っている。また、自宅充電器があれば、航続距離の短い小型で安いEVも普及させることができる。

 

日本のマンションであーだーこーだと自宅充電器の設置が進まないうちに、EV推進を掲げている米国、中国、欧州は充電器だらけになっていく。

充電器の整備数、目標数もレベチである。

 

こうなってくると、「マンションの駐車場に充電器を後から設置するのは難しいよね〜」「EV乗るなら戸建てだよね〜」という、個別マンションや個人レベルの話ではなくなってくると思う。

 

日本以外の主要な市場がEV中心にシフトしている中で、日本だけハイブリッド中心のガラパゴス化で問題ないのか?マンションの駐車場が充電網から抜けることになってしまうことについて打ち手が必要ではないか?という話。

 

現状、個人レベルでは政府の対応を待たずに、充電器が最初からついているマンションか戸建てを選ぼうという話になってしまうかなと。

 

 

マンションに充電器はどの程度必要か?

 

共同住宅への充電器設置について、EVに乗ったことがない人は「ガソリンスタンドを誘致するようなものだから無理」と言っているのを見かける。

 

ガソリンスタンドに相当のはEVで言うところのスーパーチャージャー(短時間でフル充電するための強力な充電設備)であるが、そんなものはマンションには必要ない。数万円で取り付けられる100Vや200Vのコンセントがあればいいのだ。次元が違う話である。

 

また、「EVは毎日充電するんだから、充電器が1つや2つあっても足りない」と言う人もいるが、これも実態がわかっていない。

 

バッテリー劣化の関係で、EVを毎日充電する人はいない。EVの航続距離は400ー500キロ程度で、多くの人の移動距離は1日20キロ程度である。さらに、出先でも充電できるので、自宅での充電頻度は低いのである。毎日充電する必要があるのは、中国で売っている50万円の低価格なEVであるが、日本にはほぼない。

 

戸建てで専用の充電器がある人でさえ充電頻度は週1回程度、マンションで共有するなら2週に1回程度がいいところ。

 

どうも、この辺の認識のギャップがあるように感じる。「マンションに充電器があればいいな」と言う人は、「マンションにペイパーユースで使える200Vコンセントが1つ2つあれば、運用がだいぶ快適になるのにな」という感じ。

 

数十基の専用充電器や、高価な急速充電器は必要ない。200Vコンセントがいくつかあれば数十台のEVの運用がグッと快適になるのである。

 

最近の大規模マンションでは、荷物積み下ろしや来客用スペースにEV充電区画を設けて、共用するような設計にしているところも見かける。(パークタワー勝どき、晴海フラッグなどなど)

 

数台の充電価格でその10-20倍くらいのEVの運用が快適になるので、普及期はこのようなタイプの施設が必要十分なのかなと思う。

 

欧米中では時間の問題でガソリン車、ハイブリッド車が販売禁止され、EVシフトをさせていく政策だが、こうなってくると、将来的には、大きな駐車場はすべての区画に充電器が設置され、ペイパーユースで使ってもよし、使わなくともよし、という感じになっていくのではないか。

 

国内では六本木ヒルズの駐車場はすでに先取りしてそんな感じになっていて、実は200台以上の普通充電器が設置されている。ただし、これからEVを普及させていこうというフェーズではあまりにもリッチすぎる気はする。

 

戸建ての優位性

 

電気自動車の運用では専用充電器を設置できる戸建てが圧倒的に優位である。

 

さらに、戸建てはマンションでは実現できない太陽光発電や蓄電池やビークルトゥホームなどが実現でき、これらとあわせるとさらに優位性が加速する。

 

昼間は太陽光発電で作った電気を蓄電しておき、帰宅後の夜間にEVを充電するとか、作った電気は売電し、安い深夜電力で蓄電して利用するとか、自由自在である。

 

化石燃料で発電した電気で充電する場合、電気自動車はエコなのか?という話をしたがるオッサンがいるが、運用次第でどちらにもなる。余って捨てている電力や新たに生み出した電力を使えば追加のCO2排出がないのだから、当然ガソリン車よりも良いだろう。

 

電気自動車全体で見たらエコなのか?という話についてはいろいろなデータが出されてるので好きに見て論じればいいが、ぶっちゃけそんなの個人レベルには関係ないし、イノベーションがどんどんおこっている領域でもあるし、電気自動車はカーボンニュートラルを実現するために必要ないくつものツールの一つであるので、一部分だけを切りして叩くのは陰湿なだけで生産的でない。

 

個人としては、現時点の価格、補助金、走行性能、静粛性、運用の手間などを気にして選べばよいのである。