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富士通がオフィスを半減させるってどうなの?

富士通がテレワークを増やして、国内のオフィス面積を半減させる旨公表した。

https://pr.fujitsu.com/jp/news/2020/07/6.html

 

 

ファーストペンギン

 

コロナでオフィスが空になっているのでスタートアップ企業にはオフィスを縮小する動きがあるという話は聞くが、「従業員が1万人以上いる伝統的な日本企業で短期間でこの決断はすごい!」と思ったが、リリースを読むとコロナ前からずっと取り組んできた働き方改革の一環とのことである。

 

実はネタ自体は従前から用意してきたが、たまたまコロナによって「従業員を出社させない会社が良い会社」という雰囲気になり、その波に乗って公表したということだろう。コロナ前に発表したら、ネガティブに受け止められていたところ、「先進的な会社だ!」という受け止めがされておりラッキーである。社内からも反発が出づらいタイミングである。

 

まぁ経緯は色々あるとはいえ、「テレワークでオフィスを半減させる」と対外的に公表した事例としては、日系大企業としてはほぼ初の事例であろう。それ自体は評価されるべきだと思う。どんな取り組みでもファーストペンギンは勇気がいるものだ。やってみたら失敗しましたなら、経営責任にもなるから、普通はこっそりとスモールスタートでやるところ、ドーンと対外公表。もはや退けない。

 

 

リリース内容

 

リリースのポイントをまとめると、

ニューノーマルにおける新しい働き方として、「Work Life Shift」を目指す。

・「Work Life Shift」は「Smart Working」、「Borderless Office」、「Culture Change」の3つの要素から構成される。

・「Smart Working」は、フレックスタイム制の全社員への適用、定期代廃止、単身赴任の解除などの「人事制度改革」

・「Borderless Office」は、固定席廃止、フリーアドレス化、オフィス面積半減、サテライトオフィスの整備など、「働く場所の改革」

・「Culture Change」は、ジョブ型人事制度の一般社員への適用拡大、コミュニケーションツールや制度の導入など、「その他諸々の改革」

 

オフィスだけが注目されがちだが、全体としてなかなか尖った内容になっている。

 

 

ジョブ型人事制度

 

ジョブ型人事制度は、メンバーシップ型の人事制度と対する概念で、人ではなく仕事によって処遇しようという考え方。

米国的な考え方であり、一見聞こえは良いのだが、実際にはうまくいかないことが多い。ジョブの定義と評価が難しいためである。

また、ジョブの間で大きく処遇差を設けることや、ジョブをまたぐ人事異動が困難になることも運用上の難しさがある。

 

それではなぜジョブ型の人事制度を入れたいのかというと、「人件費の抑制」「若手や中途採用の抜擢人事」が主な狙いである。

ジョブ型の良いところは年齢が上がっても処遇を据え置きにできることである。また、ポストを限定すれば昇格も制限できる。

このため、総人件費がコントロールしやすくなる。

 

ジョブ型人事制度を人件費コントロール目的で入れると、目的と手段が整合しなくなり、歪みが生まれてどこかで運用がクラッシュする。

成果主義の時と同じである。成果主義もジョブ型人事制度も、それ自体は問題がないが、人件費抑制という目的が前に出過ぎると失敗する。

 

つまり、制度が悪いのではなく、運用が悪いのである。今回、ジョブ型人事制度がうまくいくのかどうかは今後の運用次第である。

ジョブに応じたキャリアパスや十分な処遇、トレーニングの機会があればうまくいくが、コストダウンだけが前面に出れば失敗するだろう。

 

 

定期代の支給停止

 

地味に反響が大きかったのが定期代の支給をやめるということである。通勤定期代は別に会社の義務ではないのだが、日本では慣習的に支給されるべきものとされてきた。税務上の優遇もある。

 

定期代は賃金の一種だが、住む場所によって不公平があり、新幹線通勤している人には多く支払われ、徒歩通勤の人には支給されないというものである。生産性とも関係ないため、会社としてはこの手当を廃止したくて仕方がない。そこで、テレワークを利用して廃止するというのはなかなかうまい。

 

社員に対するメッセージとしても大きく、社員としては「定期代を支給しない以上はそう簡単に出社しないぞ(精算が面倒だから)」ということになる。なお、富士通以外にもコロナ対応でテレワークを熱心に行っている会社では通勤定期代金を当面不支給にする会社があると聞いた。

 

 

単身赴任の解除

 

テレワークによる単身赴任の解除は大きいメリットである。日本社会では収入があまり高くない人(年収2000万円もないような普通の社員)を平気で転勤、単身赴任させてきたが、諸外国に比べて明らかに異常な慣習であった。

 

理論的には、雇用責任が大きいから人事異動の裁量が大きいということになるが、キャリアを自らが選択する時代に合っていない。

 

日本の地方がフロンティアであった時代は東京で採用した人材を地方に送ることに意義はあったが、今となっては負の側面の方が大きい。育児や介護との両立、女性活躍の観点でもいかにもまずい。

 

外国人採用の上で合理的に説明できないし、新卒中途採用でも敬遠されてしまう。実は女性の単身赴任率は極めて低いなど、男女不平等もあり、歴史の暗部のような存在である。共働き化の中で、転勤を断って離職する人も増えているし、転勤を打診しても断る女性も多い。

 

あまりにも運用が面倒なので、実は会社としてもできれば廃止したいと思っている慣行である。テレワークによって単身赴任、国内外の転勤を減らすことができれば会社にも社員にもメリットがある。テレワークで昭和の慣習を破壊するということだろう。

 

 

オフィスの半減

 

富士通はオフィスの面積を半減するというが、日立なども当面の出社を半減させるという公表をしている。多くの日系大企業で出社を減らす動きがある。

 

出社が減る中で、1人に1席の個人スペースを設けるのは無駄が大きいし、そもそも固定席は人事異動のたびにレイアウトの変更が必要になるなど、無駄な手間やコストがかかる。プロジェクト単位で仕事をする上でも、部署単位での固定席は邪魔な存在である。

 

そこで、テレワークを前提にフリーアドレスオフィスを構築すると、結果として面積が半分になるということだろう。オフィス賃料は昨今の空室率低下で上がっていっているが、オフィス賃料をたくさん払っても、業績には全く返ってこない。広告費や人件費とは違うのである。

 

オフィスに投資して、魅力的な環境を構築して優秀な人材を獲得、リテンションするという考え方もあるが、大企業では投資対効果が見合わないとの考え方が多いのではないか。(スタートアップではお洒落オフィスを作って低い処遇でも良い人材をとれるように努力するが)

 

富士通の一連の挑戦が奏功するのかクラッシュするのかは不明だが、少なくともオフィス賃料を削減できれば対応余力は生まれるので、ここは成功が見えている。

 

 

生産性の問題

 

テレワークだと生産性が落ちる論者がいるが、思考停止してしまっている。仕事の内容、本人の能力、自宅の環境によって、生産性が上がる仕事もあるし、大部分の人や仕事では「大して変わらない」が実態だと思う。テレワークでサボる人は出社してもサボるだろうし、やる人はやるだろう。

 

テレワークを前提とした人事管理になると、可能性は広がる。世界中の人をリモートで採用できるし、協業もできる。こうしたメリットを享受して、生産性を高めていくということだろう。これはやりながらPDCAを回して改善していくしかない。

 

「テレワークは生産性落ちる」と決め付けてできない理由だけを並べていつまでも実験しなければ、ノウハウが蓄積されず時代遅れの存在になる。世界中でテレワークが行われている今、世界中のリソースを使うチャンスがある。

 

 

他社に波及するか?

 

個人的にはテレワークは効用が大きいが、完全にオフィスレスにする必要はないと思う。ペーパーレスだって、完全に筆記用具やプリンターをなくすと困ることがある。キャッシュレスは例外なく定着して欲しいが・・・。

 

富士通の取り組みは何年も取り組んできた働き方改革の集大成(主眼はジョブベースの人事制度の一般社員への適用拡大)であり、簡単には真似できない。

 

フレックスタイムの全社員への適用、オンラインコミュニケーションの定着、様々なツールや制度の導入、定着などの土台があって実現できるものである。

 

何もない中でいきなりオフィスを半減させたら、大混乱になるだろう。働き方改革に精力的に取り組み、失敗しながらもPDCAで回し続けてノウハウを蓄積してきた会社だけが始めてチャレンジすることができるものである。

 

マイクロソフトなど、自らをショーケースとしてテストしてきた会社や、JALなどのようにテレワークに長い期間取り組んできた会社でなければ、現実的にオフィスを一気に減らすというのはできない。

 

フリーアドレスオフィスの構築でさえ、今のオフィスを借りながらでは難しい。基本的にはオフィス移転時にレイアウト変更することが多いだろう。

 

したがって、オフィス削減の流れが一気に大企業に波及することはないと思う。一方で、テレワークの定着(今まで利用しなかった人が恒常的に利用するようになる)、オフィス移転時にフリーアドレスオフィスを構築して賃借面積を削減するということは当然行われるだろう。個人席の廃止は、今までもオフィス移転時のトレンドであったが、今後は間違いなく検討される項目になる。

 

個人席を設けることで、賃借面積を増やして、賃料を稼ぐ現在のオフィスは時代遅れになり、出社したくなるような魅力あるオフィス、テレワークに比べて生産性が向上するオフィスを構築していかなければ、ケチな日本企業にとってオフィス賃料は格好の草刈り場になるだろう。